すこぶる満足している「ちいつよ」おじさんになっちゃったことには
ちいさいけどかわいくはない、けどつよい──
「ちいかわ」のラッコ先生のようにかわいくはない。「でかつよ」のように、でかくて強いということはない。
ただ、今の自分を形容するには、「ちいつよ」がちょうどいいと気づいた。
私は20代後半から武術を続けて、今51。
最初は当然、強くなりたかった。どうすれば速く動けるのか、どうすれば強い打撃を出せるのか、どうすれば相手に崩されないのか。そんなことを考えながら稽古を続けてきた。
気がつけば20年以上が経った。
そして、その過程では自分でも驚くような劇的な変化を経験した。
できなかった動きが、ある時突然できるようになった。分からなかったことが、ある時全てつながった。身体の使い方が変わり、力の入れ方、抜き方が変わり、相手の見方そのものが変わっていった。
武術というものは面白い。
筋力や体力だけで考えれば、若い頃の方が有利なはずなのに、50代になった今の方が圧倒的に強い。
長年の稽古の中で、姿勢、重心、正中軸、脱力、全身の連動といったものを一つずつ身体に落とし込んできた。
実戦武道のチャンピオンや有名流派の最高師範を指導したこともある。
自由組手についても、いつの間にか「相手を選ぶ」という感覚がなくなった。
どこの誰が来ても相手をする。
体格が大きかろうが、若かろうが、他流派だろうが関係ない。
もちろん、武術である以上、何が起こるか分からない。絶対に勝てるという確信などはない。
しかし、「誰が来ても構わない」という意味では、自分の中ではすでに無敵になったと思っている。
敵がいないのではない。
敵を選ぶ必要がなくなった。
これは一般に思い描かれる「強さ」とは、少し違うかもしれない。
強いということは相手を圧倒することだと思われがちだ。
しかし長く武術を続けていると、強さに対する感覚そのものが変わってくる。
必要以上に力まない。
相手を怖がらない。
だからといって相手を侮ることもない。
自分を大きく見せる必要もない。
ただ普通に寛ぎ、普通に立ち合う。
それだけ。
だから「俺は強い」と大声で言って回りたいわけではない。
普段は普通のおじさんだ。
会社に行って仕事をして、分からないことを調べ、50代になって簿記を勉強し、AIを触って面白がり、文章を書く。
スーパーに行けば値引きされたものも探すし、家電を買うとなれば価格を比較する。
そういう普通のおじさんが、自由組手をすれば、どこの誰が来ても簡単には捻られない。
この感じが、自分では結構気に入っている。
だから「でかつよ」ではなく、「ちいつよ」なのである。
強さを看板にする必要はない。
身体が大きくなくてもいい。
権威がなくてもいい。
社会的な肩書がなくてもいい。
強さというものは、外から見える大きさとは別のところに蓄積していく。
そしてこれは、武術だけの話でもないと思っている。
身体を整える。
心を整える。
知らないことを学ぶ。
新しい技術にも触れる。
仕事で必要になれば50代からでも簿記を勉強する。
AIが世の中を変えそうなら、とりあえず自分で使ってみる。
うまくいかなければ考える。
環境が変われば適応する。
武術で身につけたものと、これまでの仕事で身につけたもの、新しく学んでいるもの…すべて使って、この先も生きていく。
そう考えると、「ちいつよ」というのは案外、自分が目指してきた生き方そのものなのかもしれない。
巨大な何者かになる必要はない。
有名になる必要もない。
誰かより上であることを証明する必要もない。
ただ、自分自身を死ぬまで強くしていく。
身体も、心も、知性も、生きる力も。
そして必要なときには、その力を誰かのためにも使えるようにしておく。
50代になって振り返ってみると、若い頃の自分が求めていた「強さ」には、かなり近づくことができたと思う。
いや、もしかすると、若い頃に想像していたものとは少し違う形で、それ以上のところまで来ることができたのかもしれない。
だからといって、何か偉くなったわけではない。
今日も普通に生活している、ただのおじさんである。
ただし、どこの誰が来ても自由組手の相手はする。
そのくらいがいい。
でかつよではない。
ちいつよである。
そして私は、この状況に
すこぶる満足している。
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