リラックスを深めて集中力を高めるトレーニング

力を抜いて、気を入れよう──

端的にいえば、私が指導するトレーニングとは、これに尽きる。

ほとんどの人は、リラックスしようとしてダラけてしまう。集中しようとして緊張してしまう。長期的に観ると、怠けたりサボったり、あるいは頑張り過ぎたり執着したりしてしまう。

武道・武術を30年以上続けていて気づいたのは、この逆を往かなければ、強くなれないということだ。

力を抜かなければ、心身の反応速度は遅れる。緊張が抜けると、周囲の変化に気づきやすくなる。そしてリラックスが深まるほど、意識は静かになり、集中しやすくなる。

リラックスというと、ソファに座ってくつろいだり、何もせずぼんやりしたりする状態を思い浮かべるかもしれない。

もちろん、それもリラックスの一つではある。しかし、私がトレーニングで指導しているリラックスは、少し違う。

身体の余計な緊張は抜けている。しかし、意識までぼんやりしているわけではない。むしろ、身体がリラックスすることで感覚が研ぎ澄まされ、意識はより明瞭になっていく。

武術では、この状態がとても重要になる。

相手と向かい合ったとき、怖がって身体を固めてしまえば動きが遅くなる。逆に「絶対に勝ってやろう」と力んでも、やはり動きは硬くなる。相手をよく見ようと意識しすぎれば、視野が狭くなってしまう。

だから、可能な限り力を抜く。

これはトレーニングしなければできない。

姿勢を整え、呼吸を整え、身体全体の緊張を、薄皮を剥がすように、少しずつ、少しずつ解いていく。そのうえで、対峙する相手だけに意識を集中するのではなく、自分の身体や相手の動き、周囲の空間まで含めて感じ取る。

リラックスしているのに、集中している。

一見すると矛盾しているようだが、この二つは対立するものではない。むしろ、リラックスを深めることによって、より質の高い集中状態に入ることができる。

これは武術だけの話ではない。

仕事でも、恋愛でも、勉強でも、スポーツでも、何かに集中しようとして必要以上に緊張したり、執着し過ぎたりすることがある。

「集中しなければ」

「失敗してはいけない」

「もっと頑張らなければ」

そう考えるほど身体は緊張し、呼吸は浅くなり、頭の中には余計な思考が増えていく。

そんなとき、さらに気合を入れるのではなく、一度身体の余計な力を抜いてみる。姿勢を整え、呼吸を楽に深くし、肩の力を抜く。それだけでも、意識の状態は変わる。

私が続けてきた站樁(タントウ:立禅)や武術瞑想も、そうした状態を身につけるためのトレーニングだと考えている。

站樁では、基本的には一定姿勢で立っているだけだ。しかし、ただ漫然と立っているわけではない。

姿勢を整えながら、身体のどこに余計な力が入っているのかを観察し、それを少しずつ抜いていく。力を抜こうとして気が抜ければ、姿勢が崩れる。その時はまた整える。整えようとして力んでしまえば、やがてどこかが痛むので、その力を抜く。

これを繰り返していく。なので、初心者はどうしても長時間立つ必要がある。

このように、創意工夫と試行錯誤の站樁を繰り返していると、力は抜けているのに、身体は崩れずに立っているという状態が少しずつ分かってくる。そして身体が静かになるにつれて、意識も静かになっていく。

考え事が完全になくなるわけではない。何かを考えてもいいし、雑念が浮かんでもいい。ただ、それに振り回されない。執着しない。

身体の感覚や呼吸、周囲の気配を感じながら、ありのままを受け容れ、その場に立ち続ける。

そうやってリラックスを深めながら、同時に集中力も高めていく。

これは、年齢を重ねてからも続けられるトレーニングだし、むしろある程度人生経験を積まなければ辿り着けない境地かもしれない。

若い頃のように筋力や瞬発力、持久力などの体力を伸ばすことが目的のトレーニングではない。

しかし面白いことに、50歳を過ぎても自由組手で自分より若くて大きな格闘技経験者を圧倒できるほどの、俊敏性やパワーは身につく。

自分の身体の状態に気づくこと。余計な緊張を手放すこと。必要なときに意識を集中できること。そして、緊張する状況でも自分を見失わないこと。

こうした能力もまた、トレーニングによって少しずつ高めることができる。

身体を鍛える。

心を整える。

集中力を高める。

それぞれを別々に考えるのではなく、一つのトレーニングとして行う。

その中心にあるのが、「リラックスと集中」なのだ。

力を抜くことは、ダラけることではない。

リラックスすることは、気を抜くことではない。

余計な力を抜きながら、身体の隅々にまで意識を行き届かせる。

力を抜いて、気を入れる。

リラックスを深めて、集中力を高める。

そんな心と身体の使い方こそが、「大人トレーニング」の正中軸なのである。

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