大人トレーニングとは
オトナな人も、大人を目指す人も──
「大人トレーニング」という言葉には、二つの意味を込めている。一つは、「大人のためのトレーニング」。そしてもう一つは、「大人を目指すためのトレーニング」だ。
年齢を重ねれば、誰でも社会的には大人になる。しかし、年齢を重ねることと、人間として成熟することは、必ずしも同じではない。
エゴのために嘘をつかず、誠実でいる。自分の身体を自分で管理する。虚栄心や感情に振り回されず、心を整える。新しいことを学び続ける。誰かに言われるのを待つのではなく、自分で考え、自分で決め、自分から行動する。
その一方で、自分の考えだけを押し通すのではなく、異なる考え方や価値観を持つ人を尊重し、必要なときには力を合わせる。そして、自分の選択と行動の結果を、自分自身で引き受ける。
そうした主体性や自立性、協調性を備えた人を「大人」と呼ぶのなら、大人になることには終わりがない。何歳になっても、私たちは大人を目指してトレーニングすることができる。
一方で、大人には大人なりのトレーニングが必要だとも思う。
学生時代には、授業があり、部活動があり、試験があり、ある程度は学校や周囲が「何をすればいいのか」を決めてくれていた。しかし、大人になるとそうはいかない。
何を学ぶのか。何を鍛えるのか。どんな仕事をするのか。誰と付き合うのか。これからどんな人生を生きるのか。
最終的には、自分自身で考えなければならない。
だからこそ、大人トレーニングで最も大切にしたいものの一つが「主体性」である。
誰かから正解を与えてもらうのではなく、自分で考える。分からなければ調べる。必要なら人に聞く。興味を持ったことがあれば試してみる。失敗したら、そこから学んで次の方法を考える。創意工夫と試行錯誤を繰り返す。
こうした姿勢そのものが、大人にとって重要なトレーニングだと思っている。
ただし、主体性とは「何でも一人でやる」という意味ではない。人間は一人では生きていけない。社会の中では、自分とは異なる考え方や能力を持った人たちと関わりながら生きていくことになる。
そこで必要になるのが「協調性」である。
相手の話を聞く。自分とは違う意見があることを認める。自分が得意なことでは誰かを助け、自分が分からないことは素直に教えてもらう。必要なときには互いに譲り合い、一人ではできないことを協力して実現する。
自分を失って周囲に合わせることが協調性なのではない。自分の考えを持ちながら、それと同じように相手の考えも尊重する。
主体性と協調性は、どちらか一方を選ぶものではなく、両方を育てていくものだと思う。
そして、その土台になるのが、自分自身の「心・身・知」を整えることである。
身体について考えてみると、年齢を重ねるほど、自分の身体との付き合い方が重要になってくる。若い頃と同じように無理をすれば、身体を痛めることもある。
だから、自分の身体を知り、姿勢を正し、呼吸を整え、余計な力を抜き、できるだけ効率よく身体を動かせるようにする。単純に筋力や体力を高めるだけではなく、「自分の身体を上手に使う能力」を高めていく。
武術やヨーガなどには、そのための知恵が数多く残されている。
心にもトレーニングが必要である。
仕事、人間関係、家庭、将来への不安。大人になれば、さまざまな問題に直面する。
そこで感情に任せて反応するのではなく、まず自分がどのような状態なのかに気づく。呼吸を整え、身体の余計な緊張を抜き、一度ニュートラルな状態に戻る。そのうえで、「自分はどうするのか」を考える。
自分の心を整えることは、主体的に行動するための土台にもなる。
私が長年取り組んできた武術でも、ただ強くなることだけを目的としてきたわけではない。
立つこと。呼吸すること。力を抜くこと。自分の身体や心の変化を観察すること。相手の動きを感じること。自分勝手に動くのではなく、相手との関係の中で自分の動きを変化させること。
武術の稽古には、自分自身を整えることと、他者との関係を学ぶことの両方が含まれている。身体を通して心を整え、自分を知り、同時に相手を感じる。
これも大人トレーニングの一つである。
そして、これからの時代には「知」のトレーニングもますます重要になると思っている。
社会は常に変化している。特にAIをはじめとする新しい技術の進歩によって、仕事や生活のあり方そのものが大きく変わろうとしている。昔覚えた知識だけで、一生を乗り切れる時代ではなくなっている。
だから、大人こそ学び続ける必要がある。
私自身も50代になってから簿記の勉強を始め、生成AIも積極的に使いながら、新しい知識や技術を学んでいる。
学生時代には普通にできていたことを忘れていることもある。理解するまで時間がかかることもある。それでも、昨日まで分からなかったことが分かるようになるのは面白い。
そして大人の学びで重要なのは、「誰かに勉強させられる」のではなく、自分で必要なものを見つけ、自分から学ぶことだと思う。
何を学ぶのかも自分で決める。どのように学ぶのかも工夫する。学んだことを実際に使ってみる。
それは知識を増やすだけではなく、主体性そのものを鍛えることにもつながっていく。
さらに、大人トレーニングでは、人との交流も大切にしたい。
身体について詳しい人がいる。武術を磨き続けてきた人がいる。AIを使いこなしている人がいる。資格の勉強をしている人がいる。仕事や人生について、さまざまな経験を積んできた人がいる。
誰か一人が先生になり、ほかの人が一方的に教えてもらうだけではない。自分が知っていることは誰かに伝える。知らないことは誰かから教えてもらう。意見が違えば話し合う。面白そうなことがあれば、一緒にやってみる。
それぞれが主体性を持ちながら、互いを尊重し、協力する。そうした関係の中で学ぶこと自体が、大人トレーニングなのだと思う。
大人トレーニングは、完成された「立派な大人」をつくるためのものではない。そもそも、人間に完成などないと思っている。
昨日より少し身体が動くようになる。昨日より少し心を整えられるようになる。昨日まで知らなかったことを一つ知る。昨日より少し自分で考えて行動できるようになる。昨日より少し相手の立場を考えられるようになる。そして、自分一人ではできないことを、誰かと協力してできるようになる。
そんな小さな変化を積み重ねながら、自分自身を少しずつ更新していく。
「大人のためのトレーニング」であり、同時に「大人を目指すトレーニング」。
身体を鍛え、心を整え、知を磨く。主体性を持って自分の人生を歩みながら、他者を尊重し、必要なときには力を合わせる。
心・身・知を整え、人と関わりながら、これからの人生をより良いものにしていく。
何歳になっても学び、鍛え、考え、行動し、成長し続ける。
それが、私の考える「大人トレーニング」である。
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