武術師範が考える工業簿記の概要と本質|原価計算・簿記学習 #2
工業簿記は難しい──?
そう感じる人も多いかもしれない。実際、私も最初に教科書を開いた時、「材料費」「労務費」「製造間接費」「仕掛品」「完成品」など、聞き慣れない言葉が次々と出てきて少し身構えた。
しかし学び始めて感じたのは、工業簿記とは「物が形を変えていく流れを追いかける学問」なのだということである。
材料が工場に入り、人が手を加え、機械が動き、電気が使われ、一つの商品が完成する。その過程で、どれだけの資源が投入され、最終的にいくらの価値を生み出したのか。それを正確に把握するための技術が工業簿記であり、その中心にある考え方が原価計算である。
私は二十年以上武術を学んできたが、この考え方には非常に親近感を覚える。
武術でも、強い技というのは突然生まれるわけではない。正しい姿勢があり、合理的な重心移動があり、全身の連動があり、無駄な力みを排除した結果として、自然に威力が発揮される。
初心者は往々にして、拳を強く握り、腕力だけで殴ろうとする。しかし本当に重要なのは、その技がどのような工程を経て生み出されているかを理解することだ。
工業簿記も同じである。
完成した製品の利益だけを見ても、本当の姿は見えてこない。どこで無駄が発生しているのか。材料が余っていないか。人件費に見合った生産性があるのか。設備は有効活用されているのか。製造全体を一つの流れとして把握して初めて、改善すべき点が見えてくる。
武術で言えば、相手を倒すことだけを見るのではなく、立ち方、呼吸、視線、足運びまで含めて全身を観察するようなものだろう。
特に興味深いのは、「原価」という考え方である。
世の中には、売上ばかりを追いかけている人が多い。しかし実際に大切なのは、どれだけ残るのかという視点だ。
百万円売り上げても、九十九万円かかっていれば利益は一万円しか残らない。逆に五十万円の売上でも、二十万円しかかかっていなければ三十万円残る。
これは以前書いた「収入ではなく粗利で考える」という考え方にも通じている。
人生もまた、一種の原価計算なのかもしれない。
無理をして身体を壊す。見栄のために不要な買い物をする。他人の評価を気にして神経をすり減らす。そうした見えないコストを払い続けていれば、どれだけ収入や肩書きを得ても、人生の利益は少なくなってしまう。
逆に、健康を維持し、良い人間関係を築き、無駄な争いを避け、本当に価値のあることに時間と労力を使えば、人生の原価率は下がり、豊かさは大きくなる。
工業簿記は単なる経理の勉強ではない。
限られた資源をどう活かし、どう価値へと変換していくのかを学ぶ学問である。
武術もまた、限られた体力、時間、気力をどう合理的に使うかを探究する技術である。
世界は違って見えても、本質はよく似ている。
五十歳になって新しい世界を学び始めて感じるのは、優れた学問ほど分野を超えて繋がっているということだ。
工業簿記を学ぶことは、お金の流れを知るだけではない。
物事の成り立ちを観察し、無駄を省き、本質を見抜く眼を養うことなのだと、私は感じ始めている。
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