知命の武術師範が新たな世界へ|原価計算・簿記2級に挑む #1

五十歳になって、新しい勉強を始めた。

選んだのは、原価計算──簿記2級である。

武術師範が今さら経理の勉強など、少し意外に思われるかもしれない。私自身も、数年前の自分に話したら驚くだろう。

これまで私は、二十年以上武術を学び、身体の使い方や心の在り方を探究してきた。毎日のように站樁(たんとう)を行い、気を養い、組手を重ね、人間という存在そのものを研究してきた。

一方で、仕事ではITの世界にも身を置いてきた。プログラマを経験し、現在もシステムに関わる仕事をしている。情報セキュリティにも興味を持ち、最近ではAIを活用して業務を進めている。

そんな私が、今度は簿記(原価計算)に挑戦することにした。

理由は単純だ。

これからの時代、一つの専門性だけでは生き残るのが難しくなると感じているからである。

AIは急速に進化し、多くの仕事は形を変え始めている。便利になる一方で、「自分には何ができるのか」を常に問い続けなければならない時代になった。

もちろん、不安が全く無いわけではない。

実際、私の父は定年直前で職を失った。会社というものは、必ずしも最後まで人生を守ってくれる存在ではない。その姿を間近で見てきたからこそ、「もしもの時にも生きていける力」を身につけておきたいという思いが強くある。

そして、学び続けること自体が、人を若く保つ秘訣でもあると思っている。

武術の世界でも、成長が止まった人から身体は硬くなり、気も枯れていく。新しい技術を学び、新しい考え方に触れ、自分の限界を少しだけ更新し続ける人ほど、年齢を重ねても活力を失わない。

それは勉強も同じだろう。

原価計算という言葉を初めて聞いた時は、正直よく分からなかった。材料費、労務費、製造間接費。聞き慣れない言葉が並び、学生時代なら途中で投げ出していたかもしれない。

しかし、少しずつ学び始めると、意外なほど武術との共通点が見えてきた。

武術では、無駄な力を抜き、本当に必要な力だけを合理的に使うことを追求する。原価計算もまた、企業活動における「無駄」と「本質」を見極める学問なのかもしれない。

何にどれだけのコストがかかり、どこを改善すれば全体が良くなるのか。

身体を分析するか、会社を分析するかの違いだけで、根底には「構造を理解し、合理性を追求する」という共通した思想が流れているように感じる。

もちろん、まだ始めたばかりだ。

試験に合格できるかも分からないし、途中で壁にぶつかることもあるだろう。

それでも、この歳になって未知の世界に足を踏み入れる高揚感は、若い頃とはまた違う楽しさがある。

武術師範だから武術だけを語る必要はない。

人生そのものが修行であり、学びであり、挑戦の連続である。

知命の歳を迎えた今だからこそ、私は新しい世界へ一歩踏み出してみようと思う。

原価計算──簿記2級。

さて、この挑戦はどこまで続くだろうか。まずは、一冊のテキストを開くところから始めてみたい。

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