無意識の緊張を解きほぐす

疲れやすさや老化の原因──

人は案外、常にどこかに力を入れている。肩、首、顎、みぞおち、指先。自覚がなくても、身体は微細な緊張をまとい続けていることが多い。それは敵に備えるための武装のようなものだが、現代においては戦う相手が目の前にいるわけではない。ただ情報や人間関係、将来への不安に対して、無意識のうちに身構えているだけだ。

無意識の緊張が厄介なのは、「慣れてしまう」ことにある。力が入っている状態が標準になり、それが自然だと思い込む。だから疲れていても、その原因が分からない。よく眠ったはずなのに重い。休んだはずなのに抜けない。その正体は、休んでいる間も身体の奥で続いている微細な緊張であることが多い。

緊張は悪ではない。本来それは瞬間的に高まり、役目を終えれば解けるものだ。問題は、解くことを忘れてしまうことにある。交感神経だけが働き、副交感神経へと滑らかに切り替わらない。アクセルを踏み続け、ブレーキの存在を思い出さないまま走り続けるような状態だ。これでは、どれほど燃料を補給しても消耗は止まらない。

無意識の緊張を解きほぐす第一歩は、「気づく」ことにある。力を抜こうとする前に、どこに力が入っているのかを感じ取る。肩がわずかに持ち上がっていないか。奥歯を噛みしめていないか。呼吸が浅くなっていないか。ただ観察する。評価も否定もせず、そこに緊張があると認める。それだけで、身体は少し緩み始める。

呼吸は最も分かりやすい入口だ。深く吸うことよりも、静かに長く吐くことを意識する。吐く息とともに、肩の重さが床に沈む感覚を味わう。呼吸は自律神経への橋渡しであり、意識から無意識へと働きかける扉でもある。数分間、ただ呼吸を見守るだけで、内側のざわめきはゆっくりと鎮まっていく。

もう一つ大切なのは、「戦っていない」と身体に教えることだ。安全な場所であると確認する。背もたれに体重を預ける。足裏が地面に触れている感覚を確かめる。視野を少し広げ、周囲の空間を柔らかく見る。人は危険を感じると視野が狭くなり、筋肉が硬くなる。逆に視野を広げることで、脳は安全を再認識する。

思考もまた緊張を生む。「こうでなければならない」「失敗してはいけない」という内なる命令が、常に身体を締めつける。その命令に気づいたら、ほんの少し緩めてみる。「今は完璧でなくてもいい」と許可を出す。その一言が、胸の奥の力を抜く鍵になることがある。

武術の世界では、強さとは筋力の大きさではなく、必要な刹那に必要なだけ力を使えることである。力みやすい者は、いざという瞬間に動けない。日常も同じだ。無意識の緊張を抱えたままでは、本当に集中すべき場面で力を発揮できない。だからこそ、日々の中でこまめに解きほぐすことが、結果的に強さへとつながる。

緊張を完全にゼロにする必要はない。むしろ適度な張りは、生きるための活力でもある。ただ、それが慢性化していないかを見つめる時間を持つことだ。静かに座る数分。ゆっくり歩くひととき。湯気の立つ湯に身を沈める時間。そうした小さな緩みが、積み重なって基準を変えていく。

無意識の緊張がほどけた身体は、軽く、温かく、呼吸が深い。思考も柔らかくなり、人との距離も自然に調和する。外界は何も変わっていなくても、自分の在り方が変わることで世界の感じ方は一変する。力を入れることを覚えるよりも、力を抜くことを思い出すほうが、現代人には必要なのかもしれない。

解きほぐすとは、何かを新しく加えることではない。もともと備わっている自然な状態へと戻ることだ。静かに気づき、静かに緩める。その繰り返しの中で、身体は本来のしなやかさを取り戻していく。そしてそのしなやかさこそが、真に折れない強さの土台になるのである。

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