「プラーナ(気)」とは何か
プラーナ──それは東洋における生命の根源的なエネルギーまたは元素的な最小単位として、古来より重視されてきた概念である。サンスクリット語で「息」や「生命力」を意味し、中国や日本では「気」とも表現されるこのエネルギーは、単なる呼吸や空気ではなく、宇宙と個人をつなぐ見えざる力とされる。
我々は日々、食事をし、水を飲み、空気を吸って生きている。だがそれら物質的な要素を超えて、生命を動かしている何かがある。それがプラーナだ。これは心身を巡る目に見えないエネルギーであり、健康、感情、精神の状態に深く関わっている。プラーナが最適化されていれば、人は活力に満ちて心は安定し、直観は鋭くなる。反対に、プラーナが乱れていると、身体は重くなり、気分は沈み、思考は鈍くなる。
プラーナは呼吸と深く関係している。というのも、呼吸はこのエネルギーを取り込む主要な手段であり、意識的な呼吸法──たとえばヨガのプラーナーヤーマや、気功における調息法など──は、プラーナの流れを整え、蓄え、活性化するための実践なのだ。呼吸が浅く乱れているとき、我々の心もまた不安定であり、身体も緊張している。しかし深くゆったりとした呼吸を行うと、内なる静けさとともに、生命力が甦るような感覚が芽生える。
プラーナはまた、身体の中心線や経絡、チャクラといったエネルギーの通り道を流れるとされる。これらの通路が詰まれば、心身に不調が現れる。現代医学では説明がつかない不定愁訴や慢性的な疲労感、無気力感の多くは、プラーナの滞りや枯渇によるものかもしれない。だからこそ、ただ休むだけでは癒されない心身の疲れに対して、エネルギーの観点からアプローチする東洋的な養生法が注目されている。
さらに興味深いのは、プラーナは単に「自分の中にあるもの」ではなく、「外界とのつながり」でもあるという点だ。自然の中に身を置くと気分が良くなるのは、そこに満ちているプラーナと自分の内側のエネルギーが共鳴するからである。都会の喧騒や過剰な情報にさらされ続けているとき、我々はプラーナを消耗していく。だからこそ、定期的に自然に触れ、静寂に身を浸し、内なるエネルギーを回復する時間が必要なのだろう。
現代社会に生きる我々は、目に見えるものばかりを信じ、数値で測れるものだけを価値とする傾向にある。しかし、プラーナという見えない力に意識を向けることは、人間としての感性を取り戻す鍵となる。それは物質的な豊かさとは別の次元での充実感をもたらし、人生をより深く、豊かに味わうための土台となり得る。
「気を養う」「気を練る」「気を通す」──こうした古来の知恵は、単なる精神論ではない。人間の生命の本質に迫る直観的理解なのである。そして、我々がこのプラーナという見えない力を意識し始めたとき、本当の意味での自己との対話が始まるのかもしれない。
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