緊張は心の弱さではなく◯◯の問題

緊張しやすいのはメンタルが弱い ──? 本当にそうだろうか。同じ人間が、ある場面では高度な作業を平然とこなしながら、別の場面では単純な行為でも手に汗を握るほど硬くなる。この事実だけでも、緊張を単純に「心の強さ・弱さ」で説明するのは無理がある。緊張とは性格の問題ではなく、経験の問題である。

人は未知に反応する。経験の少ない状況、評価が読めない環境、失敗の結果が想像できない場面では、身体は自然に警戒態勢に入る。鼓動が速くなり、呼吸が浅くなり、視野が狭まる。これは欠陥ではなく、防御反応だ。野生で生きる動物が天敵の縄張りに入るとき、神経を研ぎ澄ますのと同じである。緊張とは危険を回避しようとする生理的な働きであって、人格の弱さではない。

では、なぜ「場数を踏め」と言われるのか。それは理屈ではなく、体験が神経の反応を書き換えるからだ。繰り返し経験した状況は、脳にとって「既知」になる。既知の領域では過剰な警戒は不要だと判断される。すると呼吸は自然に深まり、筋肉の無駄な硬直は抜けていく。自信とは、成功体験の記憶というよりも、「この状況でも生き延びられると身体が知っている」状態のことを指す。

多くの人は緊張を感じると、内面の弱さを責める。「自分はダメだ」「もっと堂々としなければ」と。しかしその自己否定こそが二次的な緊張を生む。身体が警戒しているだけなのに、そこへ思考(自我)が追い打ちをかける。本来なら一時的で済むはずの反応が、自己評価によって悪化する。問題はメンタルの弱さではなく、経験値と過剰な自己批判なのである。

緊張を減らす最も確実な方法は、精神論ではなく経験の分解だ。いきなり大舞台に立とうとするのではなく、環境を細かく切り分ける。少人数で話す、録音してみる、似た状況を再現する。小さな既知を積み重ねることで、身体の警戒レベルは段階的に下がっていく。これは根性論ではない。神経系の学習といえる。

そしてもう一つ大切なのは、緊張を完全に消そうとしないことだ。適度な緊張は集中力を高め、感覚を鋭くする。問題は「緊張していること」ではなく、「緊張に飲み込まれること」だ。経験が増えると、緊張は消えるのではなく、扱えるものへと変わる。波が立たなくなるのではない。波の上で立てるようになるのだ。

緊張は敵ではない。それは未知への入り口に立った証拠だ。もし緊張しているなら、それはあなたが挑戦しているということだ。メンタルを鍛えようとする前に、体験を増やせばいい。身体が学習すれば、心は自然に静まる。強くなろうと力むよりも、経験を積むこと。緊張は精神の欠陥ではなく、経験不足が生む自然な反応に過ぎないのだから。

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